シュガーバッターとパートケイク。マフィン作りのヒントをプロが作るパウンドケーキから学ぶ
気温も高い日が続き、菓子類の持ち運びにも少々ストレスを感じてしまう季節です。遠方になるほど、手土産としては焼き菓子のニーズも高まる季節ではあるわけですが、今回は夏らしい、季節感を大切にしたパウンドケーキが新たに登場です。
また、お菓子作りではポピュラーなマフィン作りなどに代表される、シュガーバッター製法と、近年パティスリー業界でも主流になった、パートケイク製法の二種類の製法を、通年販売しているケイクオゥフリュイと共に、比較解説します。製法については論理的に解説しているので、少々難解な部分もあるかと思いますが、最後までご覧いただければ幸いです。
なお、記事タイトルにある、マフィン作りのヒントと記載しましたが、自分ではパウンドケーキ=マフィンケーキ。といった概念ですのであらかじめご理解ください。
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シュガーバッター製法で作る、フルーツパウンドケーキ
サマーフルーツの漬け込み
サマーフルーツパウンドケーキで使用するのは、ドライのマンゴー、パイナップル、バナナ、さくらんぼ、アプリコット、ゴールデンレーズン。オレンジ輪切りは自家製。
マンゴーは繊維に沿って裂く様に。
パイナップルも繊維に沿って5mm幅に。
ヘーゼルナッツは、ローストして荒く刻みます。
漬け込むお酒は、さくらんぼのリキュール「キルシュ」、トリプルセックの「ソミュール」。
キルシュ特有の強い風味、ソミュールはトリプルセックの中では濃厚な甘みが強いタイプで、意図的にキルシュとの雰囲気を変えて、印象の強いオレンジドライを採用しました。
そしてもうひとつ、アメール オランジュは、瑞々しいオレンジの香味、リンドウの根由来のほろ苦さ、キナの爽やかさを特長とする、アルザス地方伝統の柑橘系ハーブリキュール。フルーツの漬け込みではスパイスは使用しないので、リキュールで少しクセを加えています。
フルーツ漬け込みの留意点
アルコール分は40%ほどに調整して漬け込みに使用します。
アルコールの度数が高すぎると、漬け込んだ時にドライフルーツの糖分が極端に抜けてしまい、逆にアルコール度数が低いとお酒の旨味、もしくは日持ちの面で影響が出る恐れがあります。
アルコール分と糖分を浸透圧によって、最適な状態に漬け込むには、日数も要します。加熱によってセミドライフルーツを茹でたりすると、旨味が抜けてしまいますし、リキュールの水分が先に果実の中に入り込んでしまったり。これによって口に含んだ時にアルコール分を強く感じてしまうかもしれません。セミドライフルーツの漬け込むには最低一ヶ月、ゆっくりと行うことが大切です。
ナッツ類を漬け込むのは、その固形分を糖分で圧縮することで(あくまでじっくり。がイメージです)ナッツの旨味である油分がじんわりと全体に広がるイメージ。油分の高いヘーゼルナッツを使うことでその効果はより高く感じていただけます。
小麦粉にはスターアニスのパウダーを加えます。ジンジャーに似たすっきりとした香り。少量でも香りの余韻の印象を強く感じさせてくれます。
シュガーバッター製法によるパウンドケーキの仕込み
バターはあらかじめポマードの柔らかな状態に戻しておきます。
ここにグラニュー糖を加えて、低速のミキサーでゆっくりと擦り合わせていきます。
この時に注意するのがバターの固さ。バターを混ぜながら、固めの状態だと空気を抱き込んでしまい、泡立ったような状態に。空気が入り込んでしまうと、玉子を加えた時に分離しやすくなりがちに。これはバターの可塑性によるもので、バターの滑らかな質感が損なわれ、ボソボソした状態のところに水分を加えた結果、バターの質感が完全に破砕される。そんなイメージで捉えてみてください。
柔らかくし過ぎた場合、溶かしバターのような状態になってしまい、卵の膨張によって膨らむような質感になってしまいます。
バター自身が、玉子を主体にした水分を入れ終わった時にマヨネーズのようなクリーミーな状態であるかどうかがシュガーバッターの成功を左右する決め手です。
バターと玉子の乳化では、バターのクリーミングと呼ばれる、バターが溶け出さない、固形分としてギリギリの温度帯、28度を意識します。それと、バターが溶け出さないようにするために、グラニュー糖を一緒にバターとすり合わせることで、バターの油分を糖分がきちんとホールドしてくれる役割を果たしてくれます。
ここに卵液を加えるのですが、冷たい玉子を加えていくと当然バターは冷えて固まってしまいます。
玉子を温める際も注意が必要です。熱しすぎると次第にバターが溶け出してしまい、全体がふっくらと持ち上がらない生地になってしまいます。
シュガーバッターは室温にも左右されます。特に冬場は生地が冷えやすくなるので生地温度の管理が難しいですが、ふんわりとした食感はまさに伝統的な味わいには欠かすことのできない口どけ。バター、そしてグラニュー糖を擦り合わせて、砂糖の粒子が半分程度になるまで、ゆっくりゆっくり混ぜ合わせます。
:画像左はグラニュー糖と合わせた状態。 右が混ぜ込んだことによってグラニュー糖の粒子が細かくなったところ。
玉子の温度は30度程度に。糖衣されたバターは、熱による損傷をブロックしてくれるのと同時に、糖分は玉子の水分と混ざり合い、焼き上がりに表面に出る、シュガーブルーム現象も表れません。
漬け込みフルーツには、生地の仕込みの前にソミュールを追加で加えておきます。
卵液を4〜5回に分けて加え、きちんと乳化させた後、漬け込みのフルーツを生地に加えてなじませてから篩った薄力粉とバレンシア種アーモンドパウダーを加えます。この工程が逆になると、グルテンの出過ぎになることがある(フルーツをなじませる作業が加わり、粉類を混ぜすぎてしまう)ので注意が必要です。
焼き上がりにはシロップをたっぷりと塗ります。
アルコール度数の低い、オランジュアメールをシロップと同割合で合わせたものを3回に分けてアンビベします。
しっとり、ふんわりと柔らかくやさしい食感と、フルーツの食べ応えが両立したパウンドケーキが完成しました。
フルーツはあえて大きめに切り分けているので、個々の味わいも印象強く感じとってもらえると思います。
パートケイク製法で作るパウンドケーキ
温度管理をきちんとすることで失敗も少なく、「理にかなった」製法で、フードプロセッサーでの仕込みもできる為、近年ではこちらの製法で焼き上げたタイプのものが多く見受けられます。
フルーツの漬け込み
シナモンとバニラスティック、スターアニス、ブラックペッパー。アーモンドとピスタチオはローストしてから。
オレンジ、アプリコット、いちじく、プルーン。三種類のレーズンと、リキュールのミックスで一ヶ月以上漬け込んでから使用します。
(リキュールのミックスは後述のシロップで紹介します)
生地の仕込みの前にシロップを切っておき準備します。
パートケイク製法によるパウンドケーキの仕込み
バターに砂糖を糖衣させるのではなく、玉子と糖分を最初に溶かし込むことがこの製法において最初のポイント。
ここではグラニュー糖とベルジョワーズを玉子に加えてから、35度程度に温めていきます。
篩っておいた粉類を加えて混ぜ合わせます。
シロップに浸すため、薄力粉の代わりに15%は強力粉を配合して、グルテンの網目構造を細かく、縦横に形成させます。
粉気がなくなる程度に混ぜ合わせたら、溶かしたバターを加えます。
バターを加えるときの温度は40度以上で。小麦粉を入れ終えた生地温度にも多少左右されますが、バターの油分がきちんと分散した状態でバターを乳化させる必要があります。最初に玉子と糖分をきちんと温めておく理由もここにあるのです。水中油滴型の乳化では、熱したバターを注ぎ入れる際に、玉子などの水分が冷たい状態だとバターの油分が冷えて固まってしまいます。こうなると生地中にバターがうまく分散せずに、油分が浮いた状態、つまり分離が起こるわけです。
バターを数回に分けて、その都度粘り気の出るように中心部分からしっかりと混ぜ合わせて生地を混ぜ、乳化状態に仕上げていきます。
出来上がった生地と、漬け込みフルーツを合わせて分割し、焼成していきます。
アルマニャック、ラム、オレンジコニャックのブレンドのシロップを準備します。アルコールのトータル度数はやはり40度以上で。
シロップは50度以上の熱した状態で、焼き上げたケイク全体を浸します。この工程はイースト菓子、サヴァランに通ずる作業で、シロップに熱がないと生地の内部までシロップが入り込んでいかないのです。
グラスローを塗るために、皮膜用にアプリコットジャムを表面に塗って乾かしておきます。高温のオーブンで表面を半透明の状態に仕上げる際に、グラスローを直接塗ると表面が滑ってしまったり、生地の内部に吸い込まれてしまうからです。
ぷっくりと膨らむのは、溶かしバターを加えて焼き上げる、パートケイク製法における顕著な表情のひとつ。
生地全体のテクスチャーが均一で、オーブン炉内の輻射熱により、生地の内部に熱による圧力がかかることで中心に生地が押され、次第に真ん中に向かって生地が隆起するように膨らむのです。
フランベしたリキュールのシロップをたっぷりとパウンドに含ませていますが、お酒が苦手な人にはオススメできません。悪しからず。
ケイクオゥフリュイ。今だけ(6月中の予定)小さいプティサイズも限定販売しているので、ぜひお試しくださいね。
:関連リンク ペルシュの焼き菓子一覧はこちらからどうぞ
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