ペルシュのオーナーブログ(第七〇三回)
ご無沙汰過ぎるにも程があります、本当に申し訳ない…皆さま変わらずお元気でお過ごしでしたか?
私は相変わらず基本的にお店のキッチンでの引きこもり生活で、お知り合いからはお店に行ったけど忙しそうで声かけれない。奥に居るから見つけられない、なんて言われますけど、気楽に呼んでくださいな、折角お越しいただいてるならお会いしたいです!
ブログはなかなか文章で近況をお伝えするのも億劫になりがちでした。生活のベースは変わらずに菓子づくりが中心で、ただ単に仕事だけをしているわけでは当然なくて、年々変化していく嗜好に合わせて地道なアップデートを日々続けている状態です。
去年は久しぶりに一般の方向けのお菓子づくりのワークショップ、子どもお菓子教室も開催できたのでとても嬉しかったです! 子どもたちはいつの時代も変わらず元気だし、オトナの皆さんも、意識高く学ぼうとする意欲がすごくて!こちらも刺激をいただけてます(今年はチーズスフレつくりましょうね笑)
ワークショップ、製菓学校で講師を勤めているなかで感じた「美しく仕上げるためのハウツー」に対する質問が多くて、つくり手と受け手の相違があるのもなんだか楽しいな、ってなりました。 ビジュアライズされたものは今回さておき、自分自身が菓子づくりにおいて常に向き合い続けている問題にフォーカスを当てながら安定のオタクデッキの解放に尽力した内容をお届け致します!!!(毎回)
ただ、一年、いやもっと長い期間あれやこれやと考えながらいろいろと実践しながらトライアンドエラーで続けてきた話も織り交ぜながらなのでかなりのボリュームになってしまいます。そこで
① 酸とアロマについて
② グルテンのはなし
これらを2回に分けてそれぞれのテーマを更新します。 ことさら、酸について言及していきたい理由はたくさん有って相当にクドい内容にはなりますがご一読くださいますと嬉しいです。
「酸と対峙する」
なんか違うところでも何度かぽろっと述べたかもしれませんね。
「苦い」「酸っぱい」
セロリ、パクチー苦手。そんな方も多いと思います。加えて個性的な香りが加わると、意識はさらに違ったところへ向かうのかもしれないですね。
鼻はコミュニケーションの道具であるにもかかわらず、学校では読み書きを習っても、においの学習は行われていない。
フレーバーにおいての苦味や酸味。詳細については後ほど説明していきますが、お菓子の味わいを構築していく中で少し考えて扱わないといけない味覚だと思っているんです。でもにおい=アロマの足し方で酸味を手懐けたいな、コントロールしたいな。って常に思ってます。俗に言うジレンマってやつですね。
旨味成分。。グルタミン酸!イノシン酸!そう!酸って付いてるじゃないですか!!!
子どもが酸っぱいものだと食べないから。ってじゃないんだよ!!!!お魚にも唐揚げにもレモンとかの酸かけたほうが美味しいですよね?
ラズベリーって酸っぱいんで敬遠しがちです。じゃ世界広がらないですよね?
そういうご意見をいただくとどうしてもこちらも提供を敬遠しがちになってしまうのもよろしくないな。とは常に思っているのが、酸について常に葛藤していることなので素直にお伝えしておきます。。。
今さらだけどアロマとフレーバーが産んだペアリングという概念
今年に入ってから(2024年の話) 改めてマカロンのフレーバーについてキチンと説明を加えたテキスト一覧を書き記さないといけないな。そう思い、大まかなテイストアナライズとレシピ構築の際、実際に使用しているチョコレートを同様に分析しながら採用に至った経緯を交えながらかなり掘り下げた内容などを記したアカウント。
https://www.threads.net/@atelier__perruche__02
アロマと酸に関しては自分がよく取り入れる概念があるので紹介します。あまり意識し過ぎず、直感でセレクトしながら調整していくことがほとんどです。
わりと最近まで、ペルー産カカオに対して苦手意識がずっとありました。
アロマティックでフローラル、カカオの持つ酸味、程よい苦味。もちろんカカオの品種別に個性は変わりますが、土壌から得られる個性としての大まかなフレーバーノートです。
ペルー産ブラックチョコレートを食べることが苦手ではなくて『使いこなす』ことに対しての苦手意識。ということです(変化に富んでいて魅力的なカカオです)
つまり冒頭で申し上げたように、「苦い」「酸っぱい」が、カカオの個性。だからです。三世代をターゲットに、みんなで揃ってケーキを囲んだ集いの主役、なんて概念があるのであまり子どもウケしないだろうなー。って考えが念頭にあると、新作づくりにおいては後ずさりしがちです。
しかしながら、[甘くない]というニーズは、お菓子をお求めの方では常に一定数いらっしゃる。ブラックチョコレートのニーズとかポテンシャルについてはまだまだ探究していかないとダメだと思ってはいるんですが。
そもそも、「甘過ぎない」いう尺度が全く掴めないと個人的には思ってます。よくケーキの感想レヴューに登場する単語ですけど…
チョコレートの場合、カカオ分が高いほど、甘くない。という認識が一般の方たちにはあるのですが、間違いではないです。
カカオマス、より分かりやすく置き換えると、ココアパウダーを食べると甘くない、むしろ苦味を感じる。という意識で考えていただきたいのです。ホットココアには任意で砂糖が加えて次第に好みの甘さにいくわけですよ(当然)
ただ、原料となるカカオ豆にもいろんな品種があって、我々の日本人の日常で馴染み深いお米に例えるとすると、コシヒカリがあって、ササニシキがあって、あきたこまちがあって。さらにコシヒカリでも何処県産、最近ではカカオ豆でも同様に○○農園収穫。などといったグランクリュ(産地生産者限定)を前面に押し出してきています。
安定の脱線事故を起こしかけているので話題を戻しますが、要するにカカオ豆でも品種によっては素材そのものにしっかりとした甘みを感じられる品種もあるわけで、糖分が多い少ないだけで、素材のポテンシャルを決めつけて欲しくないわけですよ(コーヒー豆と同じで、カカオ豆の焙煎の工程によって大きく変わる部分です!)
そんなチョコレートの個性をアウトプットするツールとして、自身のスペシャリテのマカロンには、かなり自身の偏愛を詰め込んでいるのです。
そこでようやくマカロンを通じて登場するペルーカカオ。これに関しては「甘い香り」を追加することで、ある種攻略し始めることができてきたんじゃないかと感じてます。
マカロン ラベンダー
ハーブティー用のドライラベンダーからアロマを抽出する。一旦水で煮出してから煮立たせた後、フレッシュクリームとラベンダーはちみつを加えてさらにひと煮立ちさせる。
ポプリにもなるアロマ、そのままではネロリではなくてラバンジンのように個人的には感じてしまうのだ。決してカンファーというわけではないのだが、甘美さとは少し違う、ラベンダーのフローラルノート。
なのでひと工夫加える。ラベンダー単一のはちみつを加える事で、フローラルなニュアンスに寄せる。花粉由来なら間違いなくお花らしさが広がるからだ。
そしてカカオとのアコード。華やかな酸が広がりを見せる…ここで述べている華やかさ、というのは読んで字の如く“フローラル” な甘い香りのことだ。芳しくというよりは、ふわっと広がる儚さも備えた甘い香り。アロマティックなノートは、カカオが醸すことができる華やかさそのもの。ラベンダーとのペアリングで、カカオの持ち合わせるアロマの輪郭が浮き彫りになるのがこのガナッシュの最大の魅せ場なのだ!酔いしれること必須の、パフュームの魔力を体感していただきたいものだ。
今回はラベンダーのお花の香りを「被せる」ことで、苦みや酸味を軽減させる。むしろ中和することでチョコレート本来の美味しさを引き出そうとする目論みでもあるわけです。
そして注意していただきたいのが、香りが甘みを感じさせるわけであって、実際に甘さ(糖分)を足しているわけではないという事です。それほどに味覚と嗅覚は危なげな感覚であるとも言えるのだと思っているのです。
酸と対峙する話を振っておきながら、アロマについてそこそこ語ってしまいました。ここで改めて、酸味について触れていかせてください。
洋菓子、つまりは欧米の食文化を擬えているので、どうしても酸味を直接的に感じることが多いように感じます。
つまりそれって普段の食事で習慣的に摂っていることだと思っていて、必ずしも全てがそうだとは思わないのですが、わりと和食では酸味が尖ったものはないように思います(偏見強めです、梅干しとか絶対酸味強い)というのは普段から食べ慣れているせいだとは推測してるんです。ラズベリーの酸味とかって、不慣れなんだと思うんですよね。味わうという経験値がまだ少ないみたいな感じ?
ちょっと衝撃だった、コーヒーの酸について
コーヒー豆の精製過程での発酵プロセス「アナエロビック・ファーメンテーション」
「嫌気性発酵処理」はもともとはワインの醸造で行われている手法でありアロマティック重視のワインは収穫したブドウを酸素と触れ合わせないようにするわけです。通常コーヒー生豆も精製する際にも発酵させる工程はあります、密閉はせず、空気に触れる状態で行われてきました。(好気性発酵)アナエロビック・ファーメンテーションとは密閉して空気に触れさせない、嫌気性の微生物のみによる発酵で風味を形成することが目的です。
コーヒー界隈で耳にする、現在のトレンドからインスピレーションを得ることがとても多かったので自身の菓子づくりにも取り入れつつ、紹介もしていけたらと思います。
実際に味わってみる事で感じたことをカタチにしたいと思っていたなかでの新しい試みです。嗜好品としてのコーヒー。というスタンスが改めて確立されたんだ。そんな衝撃を改めて感じたのが、アナエロビックコーヒーを初めて味わったときに感じたことです。
今現在、自身で新作を作成する際いつも意識しているのが「酸を乗りこなす」ことです。洋菓子の世界ではさまざまな「酸」と対峙せざるを得ません。
<Neo Opera制作にあたって>
カカオの酸に対するペアリングからもう一歩踏み込んだ新たなシナリオ。
パッションフルーツという果実味がいろんな解釈に対しての輪郭を描いてくれるであろう、そんな期待と共にコーヒー豆並びにカカオ豆もフルーツである。という新たな概念が刻まれて欲しいという願いが今作に対してのいちばんの思い入れでもあるのです。
「オペラ大聖堂」をリノベーションする際、よりモダンに構築する術を模索していた最中での想像です。
製菓専門学校で昨年6月実習のテーマにも掲げた、「酸について」をコーヒーから、トレンドという側面から同時に紐解いていく内容について紹介します。
実はそのコーヒーをちゃんと掘り下げていこうと思ったのが、東京在住のバリスタさんからいただいたものが始まりで。お互い共通して推しているアーティストさん(Cö shu Nie) つながりがきっかけなのも不思議なご縁に感じられたりするんですよね。
その方から送っていただいたアナエロビックコーヒー豆数点を福井市のカメイ珈琲店でキチンとコーヒーをドリップしてほしい旨を伝えて協力を仰ぎました。
ペルシュでのコーヒー関連のお菓子の仕込み用の豆は、カメイ珈琲店店主竹森氏に相談した上で毎回ローストしてもらってます。何事もそうですが、学びのひとコマというのはその道のスペシャリストに教わるのが一番良いんですよね。そういう相談に乗ってくれる方が身近にいるのも本当にありがたいですね。
エスプレッソ、ラテ、ドリップ…いろいろな抽出で試飲してみて感じたことが「酸」のニュアンスの強さ。今のコーヒー界隈のトレンドに驚愕してしまった…
氏に聞いてみると、ドリップしたコーヒーを急冷してワイングラスで愉しむのが最近のトレンドだそうで、アロマを愉しむ。みたいな概念はすでに終わってたのか!(終わってません!全然ありありです)と驚愕を再度受けた瞬間。
トレンドのもうひとつ背景として、コーヒー豆の栽培農園が独自に豆の加工も行うそうです。付加価値を付ける、独自性を高める…
一次産業のこれからの在り方の指針としてはとても興味深い背景だと感じました。
収穫した作物を加工して出荷することで収益性も独自性も上がるのは生産者さんにとっても強みですから。地元食材を積極的に使用したいという考えを踏まえた上で、一次産業の皆さまとの共存については常に思うところがあります
今のトレンドについて竹森氏に伺ったところ、実際に酸味のあるコーヒーの「ウケ」は好みにかなり左右されるそうです。飲みやすさ、親しみやすさ。そういった観点からすると自分自身、ペルシュでのラインナップでは酸味の強いフレーバーは意図的に避けてきた経緯があります(特にコロナ禍以降)
改めて酸について考えるきっかけが、コーヒーのトレンドから教わったのも不思議なものです。
ミルやらドリッパーやらもどんどん進化しているみたいです。こういうのは見ているだけでも楽しいけど、こだわりとか理屈とか説明聞いたりするのも楽しいんですよね。やっぱりその道のプロに聞くのは絶大です!
白ワインの酸。つまりミネラルについても継続的に感じ取るクセはつけておかないと感覚も鈍っていっちゃうんです。筋トレみたいなもんですかね。トレーニングを続けていないといけないみたいのも大変だったりするのです。
ハイブリッドなどの有効性はあるのだが、味わいという点でいえば、焙煎度合いを理解することが一番重要であるとのことで、ワインであれば初めに品種で好みを選定していくのに対し、コーヒーでは焙煎度合いで好みを選ぶのがいいとしている。
ワインで例えるなら、樽香が付きすぎて産地や品種がわからなくなるといったイメージだろうか。
この辺りの違いはやはり面白い。またコーヒーにも発酵が関連していることも触れなければならないだろう。
コーヒーにおける発酵は、果実を生豆にする精製過程に関与してくる。
このときの発酵によって重要になるのはエステルなどの発酵臭と酸である。
https://mono-assemblage.com/alcohol/coffeewines-aroma/
引用テキスト元のブログリンクです。アルコールを含むとお酒が苦手な方は敬遠しがちになりますが、発酵や酸についての共通点や、アロマやペアリングについての学びにもなりそうなので興味のある方は是非。
製菓学校で実習
「作り方」からは少し離れて、「つくりたいイメージ」のために「どうやるべきか」という部分にフューチャーしてみた。
検索したら何かしら出てくる、「必須」情報は容易に得ることができるけど、深淵に迫る本質はやはり経験でしか得られることはできないし、そもそもどうやって情報を得るかの手法が容易過ぎるのが問題なんだと思います。スマホで検索ワード入れたら直ぐに見つかる、脱線しないわけですよ。
ホント、おじは昔むかし情報を仕入れるのに本屋に通い詰めました。レシピ本も少なくて高いし手が届かない。洋書も高額。申し訳ないけど立ち読みで情報収集が多かった時代ですから、結構本気で読むんですよね。あれやこれやとわからないことが増えていくので、ひとつ検索が関連で10個検索に広がっていく…
なんでこんな話するかっていうと
「何がわからないかが明確でない」
と感じるからです。
歳上のひととの受け答えの仕方、強いては経験者の方やその道の専門のひとから情報を得るのは有益で間違いなく、刺激を絶対受けるので気恥ずかしいとか日和ったりせずに勇気を出して接して欲しいものです。もちろん、若い世代と接する側にも責任はあるのでお互いが意見交換と意思疎通を上手く図れるとイイのですが…
3時間の実習で仕上げた夏向けのオペラです。
バタークリームだとどうしても油脂分が多くなりすぎて、夏場の気温の場合には伴って人間の体温も上昇することで本来ならじっくりと旨みが広がっていくはずのバターの乳味などが油っぽく感じてしまう。低脂肪の生クリーム、水分量を多めに調整したアングレーズクリームをバタークリームと置換。サンドのガナッシュもバターは加えずに、カカオの乳化力を活かしたホールド力で安定させています。ビスキュイに染み込ませるシロップはアルコール分は排除して、アナエロビックコーヒーの酸味が程よくなる様に加糖したものとパッションフルーツのジュースでジューシーに仕上げています。
自分の中では菓子をつくるときに必ず、
①食材の主役を明確にする
②誰にどの様に味わってもらうのか(食べる方の年代、季節によって味わう温度は変わるので)
この2点を明確にします。理由もなく見栄えだけで、聞こえだけのものにはやはり何も宿っていないと思います。逆に言えばこうしたい!という熱量があればあるほどいろんなことを考えるなどしますから。可能性を決めつけることなく、たくさんのことにチャレンジしていきたいですよね。何事もトライアンドエラーだと思ってます、そうあるべきことを信じて止みません。
いつになるか未定ですが、後編もお楽しみに!